「急に顔が動かなくなった」「突然左右に顔が歪んでいる」「うがいしてたら口から水がこぼれてうがいできなかった」「片目だけ涙がよく出る」などの症状の場合、顔面神経麻痺の可能性があります。このような時はできるだけ早期に受診することをお勧めします。急に起こるため、”脳で何かあったのでは”とご心配になられることと思います。確かに脳梗塞などの可能性もありますが、ウイルスによるものが一番多いのです。適切に治療すれば回復が望める場合が多く、さらに顔面神経麻痺は脳外科や脳神経内科よりも耳鼻科で見られることが多いのです。
当院では、父や祖父が顔面神経麻痺について力を入れて診療しておりました。また私が勤めていた北野病院も大阪で1・2位を争うくらい顔面神経麻痺の患者さんが多く来られていて、私も北野病院時代には数多くの顔面神経麻痺の治療を行ってきました。急な顔の歪み、このままになってしまうのではないかという不安もあるかと思います。できるだけ早期に治療することで回復も望めることがわかってきています。気がついた時、気になった時はいつでもご相談ください。
顔面神経について
顔面神経麻痺を説明するにあたり、顔面神経について知っていただく必要があります。
顔面神経とはその名の通り、顔を動かす(表情を作り出す)神経です。
この顔面神経が脳から顔の筋肉まで行くまでの間に、耳の中を通るため耳鼻科でよく扱うことになりました。脳から耳の中を通って耳たぶの後ろから出てきて顔半分の筋肉へと伸びてきます。しかし、何らかの原因で神経が働かなくなる=顔面神経麻痺になると顔を動かすことができず、顔が歪んだり、口角が動かず口から水がこぼれるようになります。
一般的な症状
下記のような症状があるときは顔面神経麻痺かもしれません。
- 目が閉じない、今までできていたウィンクができない
- 口を閉じてうがいできない、水がこぼれやすい
- ほうれい線が消えた
- おでこのシワがよらない
原因
顔面神経麻痺は大きく2種類に分類され、原因もそれぞれ異なります。
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脳(中枢)で麻痺したもの(中枢性顔面神経麻痺)
脳梗塞や脳出血 など
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神経そのものが麻痺したもの(末梢性顔面神経麻痺)
ウイルス感染(ヘルペスや帯状疱疹)
腫瘍(耳下腺腫瘍・顔面神経鞘腫など)
膠原病(自己免疫性疾患)
この末梢性顔面神経麻痺が耳鼻科で扱う顔面神経麻痺となります。
末梢性顔面麻痺で最も多いのはベル麻痺という病気です。これは原因不明といわれてきましたが、様々な研究で、神経に潜んでいる単純ヘルペスが再活性化することで起こることがわかってきました。また、その次に多いのはヘルペスウイルスの仲間である帯状疱疹ウイルスが神経内で再活性化され、耳の帯状疱疹と顔面麻痺がおこるハント症候群という病気です。この二つの病気が末梢性顔面麻痺の約7~8割をしめます。顔面神経は脳幹をでて内耳道、鼓室内などの骨の管の中を走行しています。これらのウイルスによる炎症が顔面神経におこると、神経が腫れます。骨の管の中で腫れるので神経表面の血管もダメージをうけて神経の血流が悪くなます。これによって神経がダメージをうけて、麻痺が起こるといわれています。
治療方法
脳以外が原因で起こる顔面神経麻痺(末梢性顔面神経麻痺)に対しては、できるだけ早い時期でのステロイドや抗ウイルス薬の使用が推奨されています。早く治療を開始することで改善が期待できるといわれているためです。違和感を感じた場合はできるだけ速やかに医療機関へ受診することをお勧めします。
薬物療法(ステロイド+抗ウイルス治療)
抗ヘルペス薬に加えて炎症をおさえたり、腫れをひくことを期待してステロイドの全身投与(内服または点滴)が最も広く行われています。薬を神経周囲に移行させるために一般的に大量のステロイド内服または点滴が行われます。ベル麻痺は治療後の治癒率が90%と高いものの、改善がわずかしかみられない場合や完治しない場合もあります。また、ハント症候群においてはステロイド治療後の治癒率に差があるものの、30~75%とベル麻痺より不良であり、顔面麻痺の後遺症が残る場合が少なくありません。また、ベル麻痺、ハント症候群のいずれも完治するとしても発症から約3~6ヶ月かかることが多いです。
リハビリテーション
発症後は早い時期からリハビリを開始します。顔の筋肉の硬直や神経回路の異常な回復を修正するために行います。時期によって行う方法が異なります。リハビリ方法を一部抜粋してお伝えします。
急性期のリハビリ
■ 温熱療法
濡れたタオルを電子レンジ600Wで30〜60秒程度温めてください。この時、火傷に注意です。触れてもあつすぎない程度の温かさになったタオルをマヒしている側の顔に当てて5〜10分温めます。
■ マッサージ療法
早期から麻痺が強い方などに行っていただいています。これは筋肉を使用しないことで凝り固まってしまうことを予防します。強い力でマッサージする必要はありません、優しくほぐすような形で行ってください。
- おでこに手を置いて5回転
- 頬にておおき5回転
- 頬を下から上へ顎の形に沿ってマッサージ など
高圧酸素療法
ステロイド治療で改善が乏しい場合や発症初期から重症である場合に行います。酸素圧の高い部屋にはいっていただき、血中の酸素濃度をあげることによって顔面神経血流の改善をこころみる方法です。高圧酸素治療の施設有する病院でしか施行できません(当院にはありません)。高い圧がかかるので心臓病などの既往がある人は施行できない可能性があります。
ステロイドの鼓室内投与
ステロイドを直接耳の中に注入する治療方法です。既存の治療方法で回復が十分でなかった場合などに行う治療方法です。耳の骨の中にある顔面神経麻痺に対し、骨の継ぎ目などの隙間からステロイドを浸透させ、神経の炎症を抑える効果を期待します。ステロイド内服治療などと比較して、ステロイドの副作用は比較的少ない治療方法でその効果に対する意見はさまざまです。ステロイド鼓室内投与・高圧酸素療法はあくまで補助治療になるため、一般的なステロイドの点滴や内服を行った上での追加治療となります。
手術治療
顔面神経麻痺の改善が乏しい、予後が悪い可能性がある場合に行います。発症後14日後以降に行う治療方法であり、手術になりますので専門の医療機関へご紹介いたします。
星状神経節ブロック
頸部の深部を走行する交感神経幹周囲に麻酔薬を注射し、交感神経をブロックする治療です。交感神経の緊張が顔面神経の血流を障害する可能性があるという考えに基づいて行われます。この治療により、顔面神経の血流が改善して麻痺の改善に寄与するといわれていますが、その効果に対する意見はさまざまです。頸部の深部に注射しますので、頸部に血腫などが生じ、重大な合併症がおこる場合があります。
顔面神経麻痺のQ&A
- 治療を早くすれば早く治るの?
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治療開始が早くとも重症度によっては、回復に時間がかかる場合はあります。また発症から1週間は症状が進行する可能性があり、ステロイド治療開始しても症状が進行することがあります。重症であると判断された場合には、専門の医療機関へご紹介させていただく場合があります。
- 日常生活の注意点は?
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日常生活でしてはいけないことが2つあります。
「顔が動かしにくいので無理に表情を作る」「口から水がこぼれやすいのでストローで水を飲む(ストロー禁止)」です。
これらをすることにより変に力が入り回復時に左右のバランスが崩れたり、変な動きになってしまう可能性があります。コップから水を飲みにくいかと思いますが、麻痺のない方に水を溜めてから飲むなど工夫をしてみてください。
- 顔面神経麻痺を繰り返すことはありますか?
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あります。しかしすごく稀です。ベル麻痺などの顔面神経麻痺を繰り返すことは非常に稀であるため、その他の疾患(自己免疫性疾患など)が隠れている可能性があります。そのような場合は専門の医療機関へご相談させていただく場合がございます。
- 電気治療っていいの?
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私の経験上、電気治療を行った方の多くは回復が乏しかったり、回復後に悪化したりしていることがあります。私の経験のみであり、その方が非常に重症であった可能性もありますが、電気治療についてはお勧めしておりません。される前にはかかりつけの耳鼻科にご相談いただくのが良いかと思います。
- 中枢性と末梢性の見分け方がありますか?
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おでこのシワがよらなくなるのが末梢性、おでこにシワがよるのは中枢性です。
発症時期によってはまだおでこにまで症状が出てないだけという場合もあるのでそう単純な話ではないのですが、見分け方としてはこういったものもあります。治療経過によっては、MRI検査を追加で行うことも必要かと考えます。